2007年09月22日

女郎花の咲く頃

時の流れとは不思議なものだ。
同じ事象事柄が、ただ時が移ろうというだけで、
価値観も評価も、全く違うものになったりするのだから。

仇討ちは江戸の時代、赤穂浪士に代表されるように
天晴れな誉れ高き行為だった。
そして遊郭という仕組みもまた、江戸の裏社会を担う文化、
と言い切ってしまっても、過言ではなかっただろう。

しかし私達が生きる平成の御代では、
少年に妻子の命を奪われた青年は仇討ちどころか、
まともな裁判すら受けられない、という状況であり、
そして遊郭については、言わずもがな、の評価となっている。

現在の東京には、江戸の新吉原の名残がいくつかある。
新吉原への唯一の出入り口「大門」があった場所は、
今も「吉原大門」という交差点に名を残している。

また、遊び帰りの客が
後ろ髪を引かれながら郭を振り返った場所、
とされる柳の木は「見返り柳」と呼ばれ、
当時の場所からは移設され、代を重ねはしたものの、
今も吉原大門交差点付近にて、都会の喧噪という風に、
枝垂れた青葉をそよそよとそよがせている。

面白いといっては怒られそうだが、
現代の見返り柳の地には、台東区教育委員会の手になる、
名所旧跡案内の看板が立っている。
遊郭の案内を役所が施工するとは、随分と皮肉な話だ 苦笑

女郎花と書いて「おみなえし」と読む。
秋の七草に数えられる薄黄色の儚げな花だ。
「おみなえし」にどういうわけで「女郎花」
という字が充てられたのかは定かではないが、
この花の立ち振る舞いと、苦界に生きる女郎達の姿を、
昔の人はごく自然と、重ね合わせて見たのかもしれない。

女郎花が咲き乱れる、そんな季節の風に吹かれながら、
松井今朝子さんの直木賞受賞作品「吉原手引草」を読んで、
私はそんなことを思った次第である。

ブログ: 江戸街茶房より、改稿転載

吉原手引草


yori1199 at 10:58 │Comments(12)TrackBack(7)この記事をクリップ!他のマ行作家 

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この記事へのコメント

1. Posted by エビノート    2007年09月22日 20:41
『手引草』というタイトルどおり、吉原の仕組み、作法を一から手ほどきされた感じで、すんなりその世界に入っていけました。
吉原の名残りを留めている場所が、今でも残っているんですね。
その場所に立って、当時の佇まいを想像するというのも面白そうです。
この本を読んだ後なら、すんなり思い描けそう。
2. Posted by yori    2007年09月23日 15:41
エビノートさん
手引草というタイトルがなかなか思わせ振りで良かったですね。
一人語りがとっても粋な物語でした!!
3. Posted by    2007年09月24日 23:05
吉原と言う場所は今はありませんが、この時代、そこで働くさまざまな人の事情や、その中でも信念を持って生きる人たちの気持ちが切なく心に響きました。
4. Posted by yori    2007年09月25日 21:32
花さん
一つのことを眺めるのに、色々な視点があるのだということに気がつきました。裏もあれば表もある、人生は摩訶不思議ですね!!
5. Posted by たまねぎ    2007年09月25日 23:19
この本を読んでいると、吉原という場所は江戸文化の隆盛を象徴するものでもあると分かって、ちょっと見方も変わると思いました。
吉原を描くとなると、どうしたって遊女と客の色恋になるのですが、それ意外にもたくさん存在する「吉原に生きる人々」にスポットを当てているのがいいんですよね。
6. Posted by yori    2007年09月26日 22:19
たまねぎさん
確かに吉原は江戸文化の一端を担っていたのだと思います。しかし私は、それよりも切なさの方が先に立ってしまいます。それはセンチメンタルというものでしょうか 苦笑
7. Posted by きりり    2007年10月03日 02:43
面白かったです! こんな世界とは知らなかった コトバの面白さだけでもゾクゾクしました
8. Posted by yori    2007年10月03日 21:38
きりりさん
小説としての舞台も、小説としての手法も、それぞれが独特の世界観でしたね。
吉原という文化は、今の私達には理解できない、いや、きっと理解なんてしてはいけない、特殊な文化だったのだと思います。
9. Posted by ソラチ    2008年04月17日 12:22
こんにちは!!
掲げられた幾つかの謎もきになるものの、いつの間にか本題よりも吉原の仕組みや風習、しきたりに魅せられました。次に東京へ行く機会があったら、江戸の名残がある名跡・名所へ行ってみたい気になってきます。
10. Posted by yori    2008年04月17日 22:27
ソラチさん こんばんは
そうですね、ミステリアスな謎解きよりも、吉原の仕組みに興味がいってしまいました 苦笑 でもやはり最後、謎が解されていく過程は引き込まれましたね 笑
11. Posted by ia.    2008年10月01日 00:26
こんばんわ。
yoriさんのブログを読ませていただいて、さらに余韻に浸りました。
そういえば仇討ちと花魁は、江戸時代の象徴のような気がします。
歌舞伎などにでも登場しますしね。
ストーリーもさることながら、当時の吉原の様子が興味深く、
楽しみながら読みました。
12. Posted by yori    2008年10月01日 21:59
ia.さん こんばんは
以前にコメントをいただいたような覚えがあったのですが・・・ 江戸街版の方でしたね 笑
江戸という時代の奥深さというか、懐の深さというか、江戸のことを少しずつ知るほどに、そんなことを感じます。

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