2008年08月02日

濃密な嫌悪の中で

常々このブログで書いてきていることなのだが、
小説という文学を構成する三大要素は、
物語、文章、文体であると、私は思っている。

その中でも、小説の根幹を成すのは、
やはり物語、ストーリーだ。
ストーリーが文章文体と相まって
人それぞれの、多様な感性に訴える、
それこそが小説の醍醐味なのだろう。

だからこそ小説の読後感は、人それぞれ。
どんなに傑作だと多くの人々に絶賛された作品でも、
それに異を唱える人は必ず存在するし、
多くの人々から評価されない作品でも、
その作品に心揺さぶられる人は、きっといる。

桜庭一樹女史の直木賞受賞作品「私の男」を読んだ。

濃密で濃厚な物語だった。
嫌悪感を通り越し、胸が悪くなるような物語を
それでも投げ出すことなく最後まで
私に読み進めさせたものは、たぶん文章と文体だ。

繰り返し繰り返し多用される
風景描写と心模様が、
濃密な物語の密度をさらに濃厚にしていく。
密度が上がるに連れ、嫌悪感も比例し、増していく。
増していくのだけれど、
文章が読ませる、文体が読ませる、
「私の男」はそんな不思議な小説だった。

そしてこの小説で特記すべきは、
時系列の逆転という荒技に挑んだ点だろう。
各章毎に時間は過去へと遡っていく。
過去へと遡りながら、
物語はさらに色合いを濃くしつつ、展開していく。

桜庭一樹「私の男」は、とにかく読ませる作品だった。
桜庭女史の他作品にも興味を引かれるのだが、
それでも「私の男」の読中から続く
この嫌悪感は、読後にも晴れることはなかった。

私の男


yori1199 at 22:33 │Comments(18)TrackBack(8)この記事をクリップ! 他のサ行作家  | 本に関する雑文

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この記事へのコメント

1. Posted by 苗坊    2008年08月03日 00:40
こんばんわ。TBとカキコありがとうございました。
お返ししますね^^
ずしっと残る作品でしたね。
桜庭さんの作品って、読み終えた後にも残る作品が多いです。
この作品も、とても引き込まれました。
yoriさんのおっしゃるとおり、読ませる作家さんですよね^^
2. Posted by Ray    2008年08月03日 01:17
こんばんは!
この作品、確かに一気に読了は出来ましたが……語るの、かなり難しかったです(^^;
それだけにやはり圧倒されるのは作者の筆力ですね。
3. Posted by    2008年08月03日 01:47
yoriさん こんばんは!
濃厚、濃密…確かにすごくベタベタとまとわりつくような話でした。
私は「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」が馴染めなかったんですが、でも最後まで読み通しました。桜庭さんて、なんだかんだ言っても最後まで引っ張って行ってくれるんですよね〜^^
4. Posted by きりり    2008年08月03日 10:07
嫌で嫌でたまらない...それを真っ向から素面でくるような勝負の仕方に(?)脱帽です 私は桜庭氏の本って女性向きだと勝手に思うのですが、男性が読んだ感想はyoriさんがはじめてでした
赤朽ち葉家も面白かったですよ
5. Posted by エビノート    2008年08月03日 20:14
時系列が逆だったら、きっと途中で放り出していたと思います。それを最後まで読ませる内容に仕上げているんだから、すごいですよね。
6. Posted by yori    2008年08月03日 22:09
苗坊さん こんばんは
桜庭女史、初読みでした。こういう作風だったとは、良い意味で裏切られました 笑
7. Posted by yori    2008年08月03日 22:11
Rayさん こんばんは
そうですね、私の記事も比較的辛口になっていますが、決して小説としての評価が悪いわけではないのですが・・・ どうにも難しい作品でした 苦笑
8. Posted by yori    2008年08月03日 22:13
爽さん こんばんは
印象的な台詞が散りばめられた作品でもありました。心を打ち抜くような、言葉の力を再確認した小説でした。
9. Posted by yori    2008年08月03日 22:15
きりりさん こんばんは
一歩間違えば腐乱にもなりかねないテーマに挑戦した作者にはエールを送りたいですね。結果的にも十二分に成功していると思います。
10. Posted by yori    2008年08月03日 22:18
エビノートさん こんばんは
時系列を辿るうち、何気ない疑問が一つ一つ解決されていくという手法には驚きました。とても完成度の高い小説だったと思います。
11. Posted by たまねぎ    2008年08月04日 13:17
yoriさんこんにちは。桜庭一樹と三浦しをん。読ませる文章と言う意味では、このお二方は最近の作家さんの中ではずば抜けていると思います。
自分とはかかわりの少ないテーマであれ、この作品のように嫌悪感を抱かせるものであれ、一度掴んだら最後の最後まで離さない。素晴らしいです。
12. Posted by    2008年08月04日 20:22
今に至るまでにどんな出来事があったのかと、最後まで、興味を失わせなかったですよね。
過去にさかのぼる構成、見事でした。
13. Posted by yori    2008年08月04日 22:52
たまねぎさん こんばんは
なるほど、桜庭一樹と三浦しをんですか。私が読んだごく僅かの作品からは、テイストの違いを感じますが、根本的なところでは、もしかしたら似ているのかもしれません。ますます興味が湧いてきました 笑
14. Posted by yori    2008年08月04日 22:55
花さん こんばんは
過去に遡りながら、本当に何気ないところに伏線が張ってあることに気づかされ、呆然としてしまうことが、たびたびありました。これぞ小説!! という感じですね!!
15. Posted by ia.    2008年08月15日 21:17
こんばんわ。
実はyoriさんの記事を読んで「どんなに恐ろしい物語だろう」と怯えていたのですが(笑)
実際に読んでみて面白かったけど、やっぱり同時に嫌悪感も・・・。
なんとも書きづらい作品でしたね。
16. Posted by yori    2008年08月16日 10:44
ia. さん こんにちは
このような難しく書きづらいテーマに真っ正面から挑んだ作者には敬意を表します!!
17. Posted by Roko    2008年10月26日 11:06
yoriさん☆おはようございます
小町さんやおやじさんは、きっと根はいい人なんでしょうけど、ああいう関り合い方をされたら嫌だなぁってところは、妙に共感できました。(^^ゞ
それにしても面白かったなぁ!
18. Posted by yori    2008年10月26日 22:31
Rokoさん こんばんは
物語としては受け入れがたい所がありますが、それを差し引いても、小説としての力強さに満ちていたと思います。

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徒然に思いの丈を綴ります。

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